日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S14-3
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シンポジウム14
サリドマイドの催奇形性と自己不均一化現象
*柴田 哲男
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抄録

サリドマイドは1950年代に睡眠薬/鎮静薬として販売されたが,新生児に重篤な障害(四肢奇形)を誘発することが判明し使用が禁止された。しかし現在では,多発性骨髄腫やENL (erythema nodosum leprosum)の治療薬として世界各国で再認可されている。ただし,サリドマイドが持つ催奇形性は消えたわけではない。催奇形を回避するためには,厳重な服薬指導に頼るしかないのが現状である。ところでサリドマイドにはR型とS型の鏡像異性体が存在する。1979年,ミュンスター大学のBlaschke教授らは,独自に開発した光学異性体分離カラムクロマトグラフィーを用いて鏡像異性体を分離し,それぞれによる動物実験を行った。その結果,サリドマイドのS型鏡像異性体にのみ催奇形性が観察され,R型鏡像異性体は奇形を誘発しないという実験結果を得ている。この報告は医薬品開発における鏡像異性体の薬効の差異を認識させる重要な論文となり,鏡像異性体の片方のみを選択的につくる技術「不斉合成」の発展に大きく影響した。しかし実際には,サリドマイドはからだの中でそれらの平衡混合物になるため,サリドマイドは,ラセミ体が医薬品として使用されている。さて,サリドマイドはラセミ化するわけであるため,実際にはどちらを使用しても同じ結果になるはずである。ではBlaschke教授らの結果をどのように説明すれば良いのであろうか。この矛盾「サリドマイドパラドックス」は,これまで説明することが出来ず,大きな疑問の一つであった。今回我々は,生体内自己不均一化現象を用いてこのパラドックスを説明することに成功したので,その詳細について発表する。この成果は,安全なサリドマイドの開発研究を進めるうえで大きな弾みになると期待出来るだけでなく,鏡像異性体の存在する医薬品の扱いに警鐘を鳴らすことになると考えている。

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