主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
地球上の生物は、環境温を感知しながらそれに適応して生きている。その環境温を感知する分子群として温度感受性TRPチャネルがある。哺乳類では6つのサブファミリーに28のチャネルが知られており、そのうち11(TRPV1, TRPV2, TRPV3, TRPV4, TRPM2, TRPM3, TRPM4, TRPM5, TRPM8, TRPA1, TRPC5)に温度感受性があると報告されている。温度感受性TRPV1, TRPM8の発見に対して2021年ノーベル生理学医学賞が授与された。感覚神経では、イオンチャネル型温度受容体分子が温度で活性化して陽イオン流入から脱分極が起こり、電位作動性ナトリウムチャネルの活性化から活動電位が惹起されると考えられている。その陽イオン流入をもたらすイオンチャネルの中心的な分子が温度感受性TRPチャネルである。TRPチャネルはカルシウム透過性が高いことから、流入したカルシウムがTRPチャネルと複合体を形成しているカルシウム活性化クロライドチャネルを活性化して、クロライド流出からさらなる脱分極が引き起こされるモデルが提唱されている。温度感受性TRPチャネルの多くは植物由来の化学物質でも活性化する。また、温度感受性TRPチャネルは大きな温度変化に曝されない深部臓器にも発現しており、体温近傍の小さい温度変化の中で活性が大きく変化する。このように、温度感受性TRPチャネルは多くの生物種で幅広い温度域で活性化して様々な生理機能に関わっている。講演では、温度感受性TRPチャネルの構造と機能について概説する。また、温度感受性TRPチャネルとカルシウム活性化クロライドチャネルのアノクタミン1 (ANO1)の複合体がどのような生理機能に関与するのかも示したい。生物は環境温度の変化に適応して進化してきたと考えられ、温度感受性TRPチャネルの進化についても紹介したい。