主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
生体の多様な生理活動には概日リズムが存在する。このリズムは、時計遺伝子の転写翻訳フィードバックや連動する代謝振動などにより、細胞レベルで自律的に調節されている。様々な薬物に対する感受性に概日リズムが存在することは古くから知られており、これを基に「時間薬理学」という学問分野が形成されている。三浦らはカドミウム毒性の時刻依存性について齧歯動物モデルを用いて検討し、時刻依存的なカドミウム致死性を明らかにしている(Miura et al, 2012)。こうした背景から、今日では「時間毒性学」の概念も浸透しつつある。一般的にカドミウムの細胞毒性機序を考えた場合、活性酸素種の増加が介在することが示されている。われわれは、この活性酸素の増加プロセスが、睡眠物質の増加過程と相似していることに注目し、ラット睡眠覚醒リズムに対するカドミウム摂取の影響を解析した。実験では、飲料水中に1-100 ppm CdCl2を含ませたうえで、睡眠脳波と運動量を測定し、その影響を分析した。その結果、100ppmのCdCl2を28時間投与することで、ノンレム睡眠が増加し、夜間(ラットの活動期)の運動量が減少することが示された。100ppm CdCl2を28時間投与した後のラット前脳の酸化型グルタチオン量(GSSG/GSH比)は、コントロール群に比べ有意に増加しており、このレベルは0.005%過酸化水素を添加した培養アストロサイトのレベルと同様であった。したがって、カドミウムによる睡眠は、酸化ストレスの結果として生じることが示唆される。酸化グルタチオンは内因性睡眠物質であることから、カドミウムは内在性睡眠誘導機構を占有することにより、眠気を誘起する可能性が示唆された。さらに、最近のわれわれの研究によりミトコンドリアのイオントランスポートにみられる概日リズムと、時計遺伝子転写リズムが相互作用することを明らかにしているため、本発表では、上記のカドミウム毒性を介した睡眠と、体内時計との関係についても議論したい。