日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S18-4
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シンポジウム18
ヒ素による発がん機序の解明
*鰐渕 英機
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抄録

ヒ素は自然環境中に広く存在する半金属元素であり、その化学的形態により毒性が異なる。無機ヒ素は国際がん研究機関(IARC)によって、ヒトに対して発がん性のある物質(Group 1)として分類され、ヒ素汚染土壌及び井戸水を介したヒ素の慢性ばく露による種々の臓器への発がんリスクが世界的に問題となっている。

無機ヒ素は、生体内に取り込まれると有機ヒ素化合物へと代謝され、主な代謝産物の一つであるジメチルアルシン酸(DMA)は種々の臓器に対して発がん促進作用を有すること、がん原性試験において膀胱発がん性を有する事が明らかにされてきた。その発がん機序について、酸化的DNA傷害および細胞増殖の亢進が関与することがこれまでに示されている。これらの多くの知見からIARCは2004年にDMAの実験動物における発がん性を明示している。

最近、我々はヒ素胎仔期ばく露による次世代への影響について検討を進めてきた。DMA胎仔期ばく露により出生した雄マウスの肺および肝臓にがんの発生が増加すること、有機ヒ素化合物のジフェニルアルシン酸(DPAA)の胎仔期ばく露により雄マウスに肝臓のがん発生が高まることを明らかにしている。この胎仔期ばく露の発がん機序にDNAメチル化やヒストン修飾異常といったエピジェネティックな異常が関与していることが示唆され、成熟期とは違った発がん機序が想定される。近年、がん細胞にはジェネティックな異常に加えて、様々なエピジェネティック異常が蓄積していることが明らかとなっており、エピジェネティック異常はがんの発生早期の段階から発育進展にいたるまで大きく影響を与えていると考えられている。発生早期の化学物質ばく露によりエピジェネティック異常が亢進し、成熟してからの発がんに寄与することが、ヒ素胎仔期ばく露の発がん性研究の成果から解明されつつある。

本シンポジウムにおいては、実験動物におけるヒ素の発がん性とその機序―特に胎仔期ばく露による影響について総括したい。

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