主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
脳の高度な精神機能は、胎児期より生み出された神経細胞が所定の位置へと移動して複雑精巧な神経突起を伸ばし、適切な数のシナプスを介した機能的な神経回路網が形成されることで初めて獲得される。神経発生の制御には多くの遺伝子が関わるが、これら発生プログラムを制御する遺伝子に変異が生じると正常な脳発生は破綻し、様々な精神疾患が発症する。自閉症スペクトラムは社会的行動や言語コミュニケーションに支障を来す神経発達障害の一つであり、近年増加の一途をたどっている。自閉症は遺伝率が高いことから発症の原因として遺伝子変異が示唆されるが、妊娠期のウィルス感染や化学物質への暴露などの外的要因が適切な神経回路形成を妨げることで、発達障害や精神疾患の遠因となる可能性も示唆されている。しかしながら、これら外環境因子がどのようにして脳発達の遺伝プログラムを撹乱するのかについては未だ未解明な部分が多い。
自閉症感受性遺伝子AUTS2(autism susceptibility candidate gene 2)は自閉症や知的障害、ADHD、統合失調症、薬物依存など様々な精神・神経発達障害に関わることが示唆される遺伝子である。脳発達におけるAUTS2の生理的役割は長らく不明であったが、これまでに我々は、神経細胞の細胞質内でAUTS2が細胞骨格制御を介して神経細胞移動、神経突起伸長を調節すること、また、核内では遺伝子発現制御因子として働き、神経新生やシナプス形成にも関わることを明らかにしてきた。また、モデルマウスを活用することで、Auts2遺伝子の変異により大脳皮質や海馬、小脳など高次精神機能を司る脳領域の発達を損なわれ、また、この変異マウスが精神疾患様の行動異常を示すことを見出してきた。本シンポジウムでは、AUTS2が脳神経系の発達に果たす役割について詳述し、さらに、外因性化学物質との関連性についても考察する。