主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
動物試験を適正に遂行し高質なデータを得るには,実験動物のウエルビーングの向上が必要であり3Rsの遵守が求められている.とくにRefinementの向上として,動物の飼育環境を富化する環境エンリッチメント(以下エンリッチメント)の利用は有効な手段の一つになっている.
ILAR guide 8th Edition(2011)では動物のウエルビーングを向上させるためにエンリッチメントの利用が推奨されており,米国ではエンリッチメント利用プログラムを有する動物試験施設は2014年の報告では2007年の報告と比較して大幅に増加していた(IACUC Handbook 2007,2014).
近年,エンリッチメントに関する研究成果も多く報告され,とくにげっ歯類において認知機能の向上,探索行動の増加,不安行動の抑制,脳の形態学的変化,視床下部-下垂体―副腎系軸活性や糖質コルチコイド濃度の減少などが報告されている(Sampedro-Piquero and Begega 2017, Goes et al. 2015, Kirkpatrick et al. 2014, Wolf et al. 2006, Fox 2006).その一方で,マウスの攻撃性や不安を増加する場合があるとの報告もある(Nevison et al. 1999).
上述のとおり,エンリッチメントは動物種や実験目的により効果的な面ばかりでないことが知られるようになり,どのようなエンリッチメントをどのように利用するのが良いのかなどの検討が求められている.したがって,試験の目的および動物種・個体の特性なども考慮してエンリッチメントを利用することが重要であるが,その影響を評価する方法に関する研究はあまり進んでいない.
本講演では,動物試験における環境エンリッチメントの影響や応用について,サルにおける社会的エンリッチメント(ペア飼育)の評価指標に関する検討結果も含めて紹介する.