主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
演者が経験した点眼液Aによる眼毒性の事例を紹介する。非臨床試験用に合成した原薬(以下、GLP用原薬)にて調製した点眼液Aを用いてサル点眼による反復投与毒性試験を実施したところ、点眼11週以降に目をこする、開瞼不全、結膜充血、濾胞を伴う結膜腫脹などが認められた。点眼液Aの濃度と症状の間に明確な関係はなく、症状と発症時期から、有効成分あるいは不純物によるアレルギー性結膜炎と推測された。原因を特定するため、GLP用原薬及び不純物含量がより少ない臨床試験用原薬(以下、臨床用原薬)を用い、モルモットで接触アレルギー性を評価したところ、GLP用原薬が陽性を示したのに対し、臨床用原薬は陰性であった。GLP用原薬で陽性を示した群の動物に対し、複数の類縁物質で惹起したところ、2種の類縁物質(以下、類縁物質1及び2)に陽性反応がみられた。類縁物質1による陽性反応は類縁物質2より明らかに強く、点眼液中にも多く含まれていたことから、サル点眼時に認められた結膜炎症状は類縁物質1に対するアレルギー反応が原因である可能性が高いと推測されたが、類縁物質2の関与も否定できなかった。サル点眼試験において、不純物含量の少ない臨床用原薬にて調製した点眼液に切り換えたところ、結膜炎症状が悪化することはなく、切り換えから8週間以内に消失した。このことから有効成分は結膜炎の原因ではないと考えられた。類縁物質1については、合成経路を改良して徹底的に低含量で管理し、類縁物質2については、適切な安全域を設定するとともに、製剤中分解物として継続して対処することとした。今回の事例より、不純物に潜在的リスクがみられた時には、安全性部門が関連する機能と連携し、その顕在化防止に向け対処することが重要との教訓を得た。