主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
サイトカインIL-17Aはリンパ球などの免疫系細胞により産生され上皮細胞などの非免疫系細胞に作用する。ケモカインや抗菌ペプチド類が産生され、それらはさらに好中球や樹状細胞などの遊走や活性化を起こす。このIL-17A応答が中核をなす免疫系細胞-非免疫系細胞間の相互活性化は炎症を増幅させ真菌や細菌の排除に重要である一方、制御を逸脱して亢進すると疾患の誘発につながることが、乾癬、多発性硬化症、関節リウマチ患者やそれらのマウスモデルで示されている。今回我々はIL-17A応答機構が環境化学物質への曝露によって影響されることについて報告する。我々は表皮角化細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析により、IL-17A依存性に発現誘導されるタンパク質としてIκB-ζをこれまでに見出したとともに、IκB-ζがその他のIL-17A誘導性遺伝子群の発現に役割をもつことを報告した。IκB-ζ誘導機序に焦点を当てたIL-17A作用機構解析の結果、その本体はIL-17Aが特徴的に有する「mRNA安定化作用」であること見出し、また、それがmRNA分解酵素であるRegnase-1の機能抑制によって起こることを見出した。Regnase-1機能抑制はIL-17A刺激下に活性化するキナーゼTBK1によるRegnase-1リン酸化を通じて起こるが、このリン酸化に至るシグナル伝達は多発性硬化症治療薬として用いられるフマル酸ジメチルによって抑制されることを見出した。このようにIL-17Aシグナルを阻害しRegnase-1の失活を防ぐ作用を示す化学物質は、mRNA分解を維持し炎症抑制効果をもたらすと示唆される。一方、Regnase-1失活を促進して標的mRNAの安定化を起こす化学物質も存在する。多環芳香族炭化水素受容体AhRのリガンドであるベンゾ[a]ピレンはRegnase-1の働きを抑制し、Regnase-1による分解を受ける標的であるIκB-ζ mRNAやIL-6 mRNAの量を増加させた。このような化学物質の場合は炎症を拡大させ疾患を促進しうる。まとめると、IL-17Aシグナル伝達系やmRNA安定性制御機構はさまざまな環境化学物質により正負の影響を受けることから、化学物質による炎症・免疫反応の変化をもたらす標的として位置づけられると考えられる。