主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
はじめに
炎症性腸疾患(IBD)は、腸管の慢性炎症を呈する自己免疫疾患である。本邦における患者数は、近年増加の一途を辿り患者数は30万人を超えると推測されている。これまでの報告からIBDの病態形成には、遺伝的要因を基盤とした免疫機能、環境因子、腸内細菌叢など様々な因子が関与している。治療は内科的療法が主軸となり、抗炎症作用を有する 5-アミノサリチル酸(5-ASA)や免疫抑制剤などが用いられる。我々は、本邦における最大の疫学レセプトデータベースである JMDC Claims Database (累積母集団数1400万人)の2016年4月から2021年3月までの5年間に IBD と診断された全患者 44,328 名のデータを用い、治療傾向を調査した。その結果、頻度の高い治療として5-ASAや経口成分栄養(ED)療法が抽出された。
IBDと制御性T細胞
近年5-ASAは、既存の抗炎症機序の他に芳香族炭化水素受容体(AhR)を介して制御性T細胞(Treg)を誘導することが示唆された。更に、演者らは5-ASAがAhRの直接的なリガンドとなり、その結合部位について報告している(Kubota et al., Pharmacol. 2022)。そこで処方頻度の高いED療法についてもAhRに着目し、種々検討を行った。その結果、IBDモデルマウスに対するED療法は、腸管の炎症を抑制し、脾臓Tregの比率を有意に上昇させた。また、ED療法に含まれるトリプトファン(Trp)は、腸内細菌叢で代謝されAhRリガンドとなる事が知られていることから、Trpを強化したED療法をIBDモデルマウスに投与した。その結果、腸管の炎症抑制効果に加え、血中IL-10の上昇、TNF-αの抑制、脾臓Tregの上昇が認められた。本演題ではAhRに着目した免疫学的アプローチがIBDの病態制御の一助となることを紹介したい。