主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
既報[1]にて論じたようにデータの標準化は、①再利用を可能にする力、②相互利用を可能にする力、③異なる試験のデータを併合し単独の試験では得られない知見を得る力を持つ。CDISC標準が広く定着した将来においては、組織を跨いだデータの活用に関わる②、③の恩恵が期待される。複数の医薬品に共通する副作用の検討などの非競争的分野では、データ共有が比較的実現しやすい。Critical Path InstituteのPredictive Safety Testing Consortium[2]がその好例である。しかし、製造販売承認が近い、あるいは承認直後の段階にある新規性の高い医薬品では、これらのデータ共有は進みにくい。CDISC標準に遵ったデータを受け入れ、集積している規制当局は、競争的分野においても、上記②、③の力を発揮する機会を有している。企業を跨いだデータにアクセスできる規制当局は、申請者が自社のデータのみからでは見いだせなかった知見を得る可能性があるし、医薬品への反応に大きな影響を及ぼす効果修飾因子の探索や、反応を予測するためのより良いモデルを提案できる可能性もある。効果修飾因子に関する知見は、国際共同治験における一貫性評価のみならず、どのような背景を持つ患者集団が医薬品の恩恵を受けやすいか、受けにくいかの評価にも役立つ。反応の予測モデルは今後Model Informed Drug Developmentにおいて不可欠のコミュニケーションツールになっていくはずである。CDISC標準を実装することによって、上記②、③の力は企業側も強くなっていくし、企業を跨いだデータにアクセスできる規制当局も強くなっていく。両者が協力することによって、我々の医薬品評価はもう一段、二段、高いレベルに到達できるのではないだろうか。
[1] 小宮山、淡路、土屋、橋尾、鈴木、月田、製薬企業における臨床試験データのCDISC標準化、レギュラトリーサイエンス学会誌 2020 年 10 巻 3 号 p. 169-174
[2] https://c-path.org/programs/pstc/