主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
人類は7,000以上の遺伝病に罹患し約35%が異常なRNAスプライシングを伴う。そこで我々は、薬剤で遺伝子発現パターンを変化させることにより先天性の難病を治すことは可能ではないかと考え、遺伝子発現パターンの変化を生体内で可視化する技術を開発し(Nat Methods 2006, Nat Protoc.2010)、この技術を化合物スクリーニングに応用することで、先天性疾患の原因遺伝子の異常なRNAスプライシングを正常化させるスプライシング制御薬を見出している。我々のスプライシング制御薬は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Nat Commun 2011)、嚢胞性線維症(Cell Chem Biol 2020)、家族性自律神経失調症(Proc Natl Acad Sci 2015、Nat Commun 2021)、心ファブリ病、QT延長症候群などの患者細胞やモデル動物で有効性が確認されている。我々の開発した化合物はCLKに結合してSR蛋白質のリン酸化状態を変化させることから、リン酸化依存的RNAスプライシング制御機構が明らかとなった。我々のスプライシング操作薬は特定の変異を有する患者に対する精密治療を目指すものであるが、安価に合成できる低分子化合物で、複数の遺伝病や家族性腫瘍に効果が期待され、経口投与によって標的臓器に容易に到達できるなど、核酸医薬を凌駕する優れた特性を有している。
深部イントロン変異がスプライシング制御配列に起きた場合、イントロン配列の部分的なエクソン化の現象である『偽エクソン』を生じさせ、フレームシフトや終止コドン挿入の結果、当該遺伝子の発現が抑制されて病原性を示すことが判明している。近年、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)など疫学・病原性解析が可能な規模の全ゲノム配列情報リソースが整備されたことを踏まえ、我々は人工知能技術を活用して深部イントロンの病原性変異候補を絞り込んだ後、ToMMoに保存されているドナー不死化細胞に発現するRNAで予測結果をバリデーションする新手法を確立し、種々の偽エクソン変異をデータベース化することが出来た。それゆえ、ヒトゲノム情報と人工知能技術で選択された最適なスプライシング制御薬を発病前から服用することで、遺伝性疾患や家族性腫瘍の発症を抑える、精密先制医療が実現出来る可能性がある。