主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
セレンは必須微量元素であり、食品から摂取されたセレンは最終的に21番目のアミノ酸であるセレノシステインとしてセレンタンパク質の活性中心を担う。食品中のセレンは様々な化学形態を有するが、それら全てのセレン化合物は共通の代謝中間体であるセレニド(Se2-)を経てセレンタンパク質中に取り込まれると考えられている。また排泄過程においてもSe2-からセレン糖またはトリメチルセレノニウムが生合成され尿中排泄される。従って、Se2-やそのチオール結合体(-S-Se-)は、セレン代謝の中心に位置する極めて重要な化学形態であると考えられ、現在までにそれらを検出するための様々な方法が開発されてきた。しかしながらその化学的・物理的不安性が問題となり定量的な検出法は未だ確立されていない。本研究では、生体内でSe2-との平衡状態として存在する不安定な代謝中間体を活性セレン種(RSeS)と称し、Se2-やRSeSの挙動を明らかにするための新規分析法の開発を行うこととした。
本研究においては、従来法とは異なる特異的かつ定量的な分析を行うために、不安定な中間体を選択的に安定な誘導体へと変換した後、高感度かつ元素特異的検出が可能なLC-ICP-MSを用いて検出するという新規なchemico-analytical methodを考案した。誘導体化については、誘導体の安定性やICP-MSへの適用を考慮し、アルキル化剤として作用する2,5-dibromoadipic acidを採用し、誘導体の標品であるtetrahydroselenophene-2,5-dicarboxylic acidを合成してLC-ICP-MSによる検出条件および誘導体化の反応条件の検討を行った。さらに本分析法を応用し、通常飼育状態、セレン欠乏状態、また様々なセレン化合物を投与した際の生体内におけるSe2-およびRSeSの変動を明らかにした。