主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
【目的】トリプトファン(Trp)は、抗酸化作用により胎盤機能の維持に働くのみならず、Trpから代謝されるセロトニンやキヌレニンは、胎児の中枢神経機能の発達や母体免疫による拒絶からの胎児保護に必須である。したがって、母体からのTrp供給は妊娠の維持や胎児の成長に重要である。母体から胎児へのTrpの輸送は、胎盤のTrpトランスポーターを介して行われるため、それらTrpトランスポーターの発現変動や機能異常は、胎児発育不全や流産などに繋がる可能性がある。一方で、生殖発生毒性を有する化学物質への曝露が胎盤のTrpトランスポーターに与える影響については知見に乏しい。そこで本検討では、先天性異常や発達毒性を引き起こし得るバルプロ酸(VPA)をモデル化学物質として選択し、VPAが胎盤のTrpトランスポーターに与える影響を評価した。
【方法・結果・考察】ヒト絨毛癌細胞株BeWoにVPAを24時間処置し、胎盤での発現が知られる主なTrpトランスポーターの発現量をreal time RT-PCRにより解析した。その結果、SLC6A19の発現量のみがVPAによって有意に減少することを見出した。そこで、VPAが細胞内へのTrp取り込みに与える影響をLC-MS/MSにより解析したところ、細胞内のTrp量がVPAの処置時間依存的に減少し、さらに、Trpの代謝物であるセロトニンおよびキヌレニンの細胞内量に関しても、細胞内Trp量の変化と同様に、VPAにより減少することが明らかとなった。従って、VPAがSLC6A19の発現量を減少させ、Trpの細胞内取り込み量が減少することで、胎児の発達に重要な代謝物量も減少することが示唆された。そこで現在、妊娠マウスにVPAを投与した際の胎盤や胎仔への影響評価を進めており、VPAによる胎盤のSLC6A19の発現減少と胎児への影響との連関を追究している。