日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-003E
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優秀研究発表賞 応募演題 口演 1
ジフェニルアルシン酸によるラット小脳由来アストロサイトの異常活性化と液性因子による自己分泌的な寄与
*佐々木 翔斗湯川 和典都築 孝允根岸 隆之
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抄録

ジフェニルアルシン酸(DPAA)は5価の有機ヒ素化合物で、2003年茨城県で発生した地下水ヒ素汚染事故の主要な原因物質である。この事故の被害者は小脳症状を主徴とする神経症状を発症した。培養ラット小脳由来正常アストロサイト(NRA)に10 µM DPAAを 96時間ばく露したところ、細胞増殖亢進、MAPキナーゼのリン酸化、転写因子のリン酸化/発現誘導、酸化ストレス応答因子の発現誘導、サイトカインの分泌亢進等の細胞生物学的異常活性化を引き起こすことを明らかにした。本研究ではNRAにおいてDPAAばく露により生じたサイトカイン等の液性因子の分泌亢進が自己分泌的にNRAの異常活性化に関与していると考え、NRAにDPAAをばく露することによりConditioned medium(CM)を作成し、NRAに対する影響を評価した。NRAに10 µM DPAA含有DMEM/F-12/ITS-X(培養液)を96時間ばく露しCMとした。別のNRAに10 µM DPAA含有および不含の培養液、96時間インキュベートした培養液、およびCMを96時間ばく露した。細胞生存率は、10 µM DPAAばく露時は約35%の増加であったが、DPAA含有CMばく露時は約65%の増加を示した。タンパク質発現量は、10 µM DPAAばく露時と比較してDPAA含有CMによりp38MAPKおよびSAPK/JNKのリン酸化のより有意な亢進、CREBのリン酸化の低下、c-Junおよびc-Fosのリン酸化および総発現量の低下、HO-1の発現量低下が生じた。ERK1/2、Nrf2、Hsp70については変化しなかった。これらの結果から、DPAAによってNRAから分泌された液性因子はDPAAによるNRAの異常活性化の一部を増悪または抑制するという両義的な作用を示し、自己分泌的にDPAAによる小脳症状発症に寄与している可能性がある。

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