主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
背景: 肝硬変は喫煙、飲酒などの生活習慣がリスクとなる。ニコチンは健康に悪影響をもたらすことは認知されているが、消化器系、特に肝臓への作用は不明な点が多い。また、疫学調査ではニコチンが肝硬変のリスク因子であることが報告されているが、その分子メカニズムは不明である。そこで本研究は、ニコチンの肝線維化促進効果とそのメカニズム解明を目的とした。
結果: 野生型マウスへのニコチン投与は、炎症や線維化を惹起しなかった。しかし、四塩化炭素 (CCl4) 誘発性肝線維化モデルにニコチンを投与した結果、肝線維化が有意に増悪した。 次に、上記の効果はニコチン受容体の1つであるα7ニコチン性アセチルコリン受容体 (α7nAChR) を介すると仮定した。その結果、ニコチンによる肝線維化促進効果はα7nAChR欠損マウスで消失した。また、CCl4誘発性肝線維化はα7nAChR欠損マウスで抑制された他、α7nAChR阻害薬MLAによっても抑制された。 最後に、肝臓でのコラーゲン産生を担う肝星細胞 (HSCs) へのニコチンの作用を検証した。マウス初代HSCsにおいて、静止型から活性型へのフェノタイプ変化に伴いα7nAChRが発現することを確認した。また、常時活性型のフェノタイプを示すヒトHSCs株LX-2において、ニコチン処置はCol1a1のmRNA発現と細胞増殖能を有意に増加させ、MLAによってその効果は消失した。
結論: ニコチンは一次的な線維化要因の存在下でのみ線維化を増悪させることが明らかとなった。 このメカニズムとして、①一次的要因によりHSCsが活性型となりα7nAChRを発現することでニコチンへの感受性を得る、②ニコチンがα7nAChRを作動することでHSCsの細胞増殖およびコラーゲン産生を促進させる、という過程を経ることが考えられた。