主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
【背景】リン酸は医薬品の結晶化に用いられる酸の1つであるが、リンとしての1日摂取量には上限があり、特に静脈内投与においてはそのリスクが懸念されている。リン酸をラットに急速静脈内投与すると、リン酸が生体内のカルシウムと結合し結晶化することで、糸球体障害性の腎毒性が認められることが報告されている(Tsuchiya et al., 2004)。
【目的】本研究では、投与速度の低減によって血漿中リン濃度の一過的な上昇を抑制することで、腎毒性が回避され得るか検証するため、ラットにリン酸を静脈内急速又は静脈内持続投与し、その毒性を比較した。
【方法】雌ラットにリン酸緩衝液をリン酸として2.8, 17.5及び35 mg/kg/日の投与量で11日間反復静脈内急速投与又は30分持続投与し、一般状態観察、体重及び摂餌量測定、眼科学的検査、尿検査(腎毒性バイオマーカー測定を含む)、血液学的検査、血液生化学的検査(無機リン及びカルシウム濃度の経時測定を含む)、器官重量測定、剖検並びに病理組織学的検査を実施した。
【結果】急速投与群では、尿中のシスタチン-C及びアルブミン濃度が高値を示し、病理組織学的検査では糸球体症を示唆する所見が認められた。一方で持続投与群では、一過性の電解質異常が認められたのみで、尿中の腎毒性バイオマーカーの変動や、腎臓への影響を示唆する病理所見は認められなかった。持続投与群における一過性の血漿中無機リン濃度上昇及びカルシウム濃度低下は、急速投与群と比較して変動の程度が小さいことが確認された。
【結論】ラットにおけるリン酸誘発性腎糸球体障害は、リン酸の静脈内投与速度を低減し血漿中リン酸濃度の一過的な上昇を抑制することで軽減されることが明らかとなった。発表では、ヒトでのリスクに関する考察についても議論したい。