主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
下痢や便秘などの消化器毒性は、医薬品開発の中止を招く有害事象の一つであり、有効性・安全性に優れた経口薬を創製する上で、その適切な評価・予測は重要となる。しかし、薬物性消化器毒性の発現機構については、蠕動運動、水分/電解質調節、腸内細菌叢など様々な生理的因子の交錯的な関与が推察されており、その評価を一元的に行うことは困難である。例えば、消化管生理機能に影響する腸内細菌叢の作用は、serotonin (5-HT)をはじめとする消化管ホルモンとの関連性が示唆されているが、その薬物応答性は不明なままである。そこで本研究では、薬物による消化器毒性発現機構の解明を目的として、消化器毒性の発症率が高いmetforminをモデル薬物として用い、消化管内5-HT動態および腸内細菌叢に及ぼす薬物の影響とそれに伴う水分挙動変動に関する詳細な検討を試みた。まず、Caco-2細胞およびアフリカツメガエル卵母細胞を用いた検討から、トランスポーター(SERTなど)を介した5-HTの吸収動態が、metforminにより阻害される可能性が示された。一方、ラットin situ実験により、metformin存在下で管腔内水分量および管腔内5-HTレベルが上昇した。同様の傾向がmetforminの長期投与下においても観察された。さらに、NGSを用いたメタゲノム解析から、糞便中の腸内細菌叢の変化(特にTuricibacter属)ならびに多様性(α-, β-diversity)の減少が観察された。また、これらの糞便を、別の無処置ラットに移植したところ、移植を受けたラットは、ドナーと同様の下痢様症状を示した。以上より、薬物性消化器毒性の発現が、トランスポーターを介した5-HT輸送阻害に基づく管腔内5-HT濃度の上昇とそれに伴う腸内細菌叢の変化に起因している可能性が示された。