日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-016E
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優秀研究発表賞 応募演題 口演 1
ヒトiPS細胞由来心筋細胞の細胞外電位波形のAI解析による阻害イオンチャネルの推定
*舘下 正和杉山 聡白石 泰士疋田 泰士三好 隼人
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抄録

医薬品開発において、心臓への副作用は開発中止の主要因の一つとなっており、候補物質の設計段階から心臓への副作用を正確に把握しておくことが重要である。心臓機能の実体は、心筋細胞の周期的な収縮弛緩であり、心筋細胞に流れるイオン電流により制御されている。QT 間隔の延長や不整脈の誘発などの副作用は、薬剤のイオン電流に対する作用により誘発されるため、この作用を正確に把握することが、潜在的な副作用リスクの低減につながる。

ヒト iPS 細胞由来心筋細胞は、ヒトの心筋細胞における主要なイオンチャネルを発現しており、パッチクランプ法などによる活動電位測定により、薬剤がイオン電流に与える影響を評価可能である。一方で、スループット性の高い平面微小電極アレイ(MEA)による細胞外電位測定においては、細胞の培養状態や電極の状態の影響を受けるため、薬剤が単一チャネルレベルでのイオン電流に与える影響を評価することは難しい。

本研究では、MEA で計測された細胞外電位波形に対し、特徴量抽出を行い、主要阻害チャネル推定を行う機械学習モデルを構築した。このモデルについて、hERG 阻害剤を含むイオン電流への作用が既知の複数の薬剤についての実験データから評価を行い、効果を確認した。しかし、学習データ中に似た阻害メカニズムを持つ薬剤のデータが存在しない場合については予測精度が低いという問題があった。そこで、心筋の活動電位モデル(ORd モデル)により細胞内電位の挙動をシミュレーションしながら、ウェル内の細胞が単層を形成することを仮定した上で電位が空間伝播する様子をモデル化し、電極における細胞外電位をシミュレーションできる系を作成した。様々な阻害チャネルパターンで細胞外電位をシミュレートして利用することで、学習データ中にない阻害メカニズムをもつ薬剤への対応を可能にした。

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