主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
【背景】ワルファリンは抗血液凝固作用を有する医薬品(肝臓のビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)を競合的に阻害しビタミンK依存性凝固因子産生を阻害する)が、元々殺鼠剤として開発された。ワルファリン系殺鼠剤の濫用により抵抗性を示す齧歯類群(スーパーラット)が世界各地に出現し駆除が困難になっている。対策にワルファリンを基に毒性を増強した第二世代殺鼠剤が開発されたが、蓄積性が高く野生動物の中毒死が絶えない。従って、スーパーラットに有効かつ野生動物の中毒を生じ辛い新規殺鼠剤が求められている。【目的】第二世代殺鼠剤は構造上主要5物質全てが幾何異性体を持つが、近年同一化合物でもcis-trans間で生体内半減期が大きく異なる事が示された。一方でこの異性体間の排泄速度差の原因は不明である。そこで本研究では中毒を生じ辛い新規殺鼠剤開発の基盤的知見として第二世代殺鼠剤の幾何異性体の性状を比較した。【方法】本研究では第二世代殺鼠剤ブロジファクム・ブロマジオロン・ジフェナクム・ジフェチアロン・フロクマフェンの幾何異性体を分離し、培養細胞でのVKOR阻害アッセイとin silico VKOR-殺鼠剤分子ドッキングを実施した。【結果・考察】ブロマジオロンとジフェチアロンはtrans体の方が低いIC50値を示し、他3物質はcis体の方が低いIC50値を示した。しかし、全ての物質・異性体のIC50は10 nM未満であり、ワルファリン(20 nM)と比較し強いVKOR阻害活性を持つ事が判明した。また、分子ドッキングにおいてもcis,trans双方が高い結合数値を示した為標的分子VKORへの結合性・阻害能はcis-trans間で大きな差が無い事が示唆される結果となった。従って、cis-trans間での体内動態の差を生じる原因はVKORへの結合以外のアルブミン結合やP450の代謝能である可能性がある。