日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-096S
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学生ポスター発表賞 応募演題
環境中親電子物質1,2-ナフトキノンによるDNAメチル化調節を介した遺伝子発現変化
*土田 知貴伊藤 昭博熊谷 嘉人上原 孝
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抄録

近年,慢性疾患のリスクファクターとして環境因子が注目されている.このような背景から,ヒトの生涯曝露の総体として「エクスポソーム」という魅力的な概念が提唱された.一方,エクスポソーム研究は測定項目が膨大であることからアプローチ手法が定まらず,従来と同様の生涯曝露量に主眼を置いた研究が進められており,分子メカニズム研究はほとんど行われていない.そこで,本研究では後天的な遺伝子発現制御機構の一つであるDNAメチル化に着目し,反応性の高い環境中の親電子物質が及ぼす影響を解析した.まず初めに,DNAメチル化を制御するDNAメチル基転移酵素(DNMT)に対して,親電子物質の影響を検討した.その結果,45種の親電子物質の中から酵素活性を低下させる4種を同定した.その中の一つである1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)を用いて以下検討を行った.LC-MS/MSを用いてDNMT3Bとの相互作用を解析したところ,1,2-NQは特定のリジンおよびヒスチジン残基に結合することが示された.続いて,SAGE法から1,2-NQが遺伝子発現に与える影響を網羅的に解析し,炎症応答に関連する遺伝子群の有意な発現上昇を確認した.さらに,qPCRを用いて詳細な発現解析を行なったところ,1,2-NQおよびDNMT阻害薬5-aza-2’-deooxycitidineの処理時間依存的にケモカイン類の発現が上昇した.また,A549細胞において1,2-NQは処理濃度依存的に細胞増殖を誘導したが,ケモカイン受容体アンタゴニストの前処理はこの効果を有意に抑制した.以上の結果から,環境中親電子物質の一つである1,2-NQはDNMT3Bと直接相互作用することでエピゲノム変化を誘発し,細胞増殖を亢進する可能性が示された.

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