主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
我々は、ヒトiPS細胞を用いたFGF-SRFシグナルレポーターアッセイによる発生毒性評価法を開発してきた(S. Kanno et al., iScience, 2022) 。胎児の発生過程はシグナル伝達相互作用により適切に制御される。また、発生毒性物質の中にはシグナル伝達経路をかく乱し奇形を生じさせるものが報告されてきた。そこで、我々は発生毒性は正常なシグナル伝達相互作用のかく乱により引き起こされると仮説を立て、シグナルレポーターアッセイ法を構築した。この手法は生細胞を用いたリアルタイム計測を特徴としており、発生毒性物質毎に異なる時間にシグナルがかく乱されることを明らかにした。この知見を基に被験物質のシグナルかく乱作用のダイナミクスを解析することで、非常に高い正確度で発生毒性を評価可能であった。今回、シグナルかく乱作用のダイナミクスを詳細にとらえるために、生細胞ルシフェラーゼアッセイ法の改良を行った。以前の手法では、シグナルはアッセイ開始2、4、6、8、10、24時間後に手動で計測していた。そのため、長時間及び夜間の計測が困難であり詳細なシグナルかく乱作用の検出ができていなかった。本研究では、細胞培養と発光測定を同時に行うことのできる多検体生細胞リアルタイム発光測定システムを用い、シグナルかく乱の経時的変化をより詳細かつ長時間計測可能な試験法の開発に取り組んだ。この手法を用いた測定によって、24時間までの測定ではシグナル活性のピークが一回のみ観察されたのに対して、72時間まででは二回のピークが現れるということが明らかになった。さらに、バルプロ酸など一部の化学物質は24時間以降にかく乱の度合いが大きくなることがわかり、そういった物質の発生毒性の検出がより正確にできるようになった。このことから、この方法は発生毒性物質の初期スクリーニングのための有望なツールとなると考えられる。