主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
貧血は鉄不足を始め様々な要因で起こり、慢性ヒ素中毒や敗血症においても症状の1つとして知られている。貧血を改善するためにはエリスロポエチン(EPO)産生が必須である。我々はEPO産生細胞である、HepG2細胞においてヒ素の24時間曝露では活性酸素種(ROS)産生が増加し、EPO産生が促進することを報告した。しかし、ヒ素の長期間曝露での影響は不明である。ヒ素は自然環境中に広く存在し、災害によって環境中のヒ素濃度が高くなることが報告されている。加えて、災害発生時にはトイレ環境の悪化などにより細菌感染も発生しやすくなり、貧血を起こす要因が重なる事態も起こりうる。細菌感染時のEPO産生には様々な報告があり、解明は進んでいない。そこでHepG2細胞においてリポ多糖(LPS)処置によるEPO産生がヒ素曝露下でどのような影響をうけるか解析した。HepG2細胞と3週間以上ヒ素曝露したHepG2細胞にLPSを処置し、2、4、24時間培養後、細胞を回収した。EPO mRNA発現量をリアルタイム RT-PCR法で測定した。ヒ素長期間曝露されたHepG2細胞は増殖速度は遅くなったが生存率に差はなかった。無処置のHepG2細胞においてヒ素長期間曝露はEPO mRNA発現量を増加させた。無処置HepG2細胞でLPS投与により、2、4、24時間のいずれもEPO mRNA発現量が増加した。一方、ヒ素長期間曝露されたHepG2細胞ではLPS投与により、2、4、24時間のいずれもEPOのmRNA発現量は変化しなかった。 LPSもROS産生を促進することが報告されている。ヒ素の長期暴露によりヒ素によって産生するROSの除去効率が高くなり、LPS添加時のROS量の増加が抑えられたためEPO産生刺激が減少したと考えられた。ヒ素濃度の上昇と細菌感染が重なると、貧血発症がより重篤になる可能性がある。