主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
家庭用品規制法により有害物質に指定されている物質の一部については試験法が制定時のままであり、現在の分析水準等に合わせた試験法の改正が喫緊の課題となっている。また、この試験法の改定に伴い、現行で「検出されないこと」とされている物質については、基準値の設定が必要になる。本検討では、新たな基準値設定のため、防炎加工剤として使用されていたトリス(2,3-ジブロモプロパン-1-イル)=ホスファート (TDBPP)の有害性評価値案の導出を試みた。 はじめに、本物質に関する有害性情報を、信頼性が担保された国際機関及び国内外のリスク評価機関から公表された評価資料を情報源として収集し、毒性項目及び曝露経路毎に整理しその内容を精査した。その結果、本物質は変異原性を有し動物において発がん性を示すことから、有害性評価値案は発がん性に基づき導出することが妥当と考えた。TDBPPについては、経口及び経皮経由でげっ歯類に曝露した発がん性試験情報を得られたが、家庭用品からの曝露経路として想定される経皮の試験は、群により投与期間が異なる等の課題があったため、吸収率や分布等の体内動態が経口と経皮曝露で同じであるという仮定をおいて、経口経路の発がん性試験データ (National Cancer Institute, 1978)をキースタディとして採用した。ラット及びマウスに誘発された各種腫瘍の発生頻度データに基づきBMDL10を求めた結果、雄性ラットまたはマウスの腎細胞腺腫またはがんに基づく計算結果が最も妥当であり、発がん性試験の投与用量や腎腫瘍の発生率からラットの方が感受性が高いと判断されたため、TDBPPの有害性評価値案としてラットの腎腫瘍に基づく10-5発がんリスクレベル0.0219 μg/kg bw/dayを提案することとした。(本発表は我々の検討結果であり、所属機関等の見解ではありません)