日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S11-1
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シンポジウム11: 発生発達期暴露による神経行動毒性の新たな課題
発生-発達期の化学物質ばく露による情動認知行動毒性の検出と課題
*齊藤 洋克
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抄録

 我々は、日常的に様々な化学物質にさらされながら活動しており、化学物質は個体が受ける代表的な環境ストレスの1つと考えられる。ヒトを含む哺乳類において、発生-発達期は、神経活動に依存して緻密な神経回路が形成される重要な時期であり、様々な神経シグナルが適切に働く必要がある。そのため、この時期における化学物質のばく露は神経回路の機能障害を引き起こし、発達中の神経毒性や、成熟後の脳高次機能に悪影響を及ぼすおそれが指摘されている。この問題に対応すべく、我々は実験動物としてマウスを用いて、化学物質ばく露による脳高次機能への影響を客観的かつ定量的に検出するため、自発運動量、情動行動、学習記憶能、情報処理機能に着目したバッテリー式の行動試験評価系を構築し、行動影響の検出と、その発現メカニズム解析としての神経科学的物証の収集を進めている。

 今回は、モデル化学物質としてピレスロイド系殺虫剤であるペルメトリンを用いた結果を中心に報告する。ペルメトリンを妊娠期から授乳期の雌マウスに飲水投与し、得られた雌雄の産仔において成熟後に行動試験を行った結果、雄マウスにおいては学習記憶異常を主とした行動影響が認められ、神経回路基盤の形成に与える影響として、海馬における新生ニューロンの過剰産生およびアストロサイトの機能不全が生じていることが示唆された。一方で、雌マウスにおいては、雄マウスのような特徴的な影響は認められず、ペルメトリン投与による中枢神経系への影響には雌雄差が存在することが疑われた。

 上記結果を踏まえ、本シンポジウムでは、発生-発達期への化学物質ばく露によって成熟後に顕在化する行動影響を検出するためのこれまでの取り組みや、新たな課題としての化学物質の低用量影響および行動毒性発現の性差について議論したい。

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