日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S12-4
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シンポジウム12: 法中毒学の教育・研究における新たな潮流と毒性学との連携
薬学部における死因究明関連教育研究の課題と今後
*沼澤 聡
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抄録

 薬学の学問体系が明治期に整備されると同時に裁判化学講座が設置され、薬学教員の科学的知識を社会に還元する窓口となってきた。裁判化学は、薬物分析、動態、毒性などを統合して薬物摂取と死亡との因果関係を考える学問であり、現在では法中毒学がほぼ同意で用いられている。薬学部では、これまで裁判化学を学修した卒業生を鑑定業務機関に輩出してきた。一方、2006年に始まった薬学6年制教育の全体像を提示した薬学教育モデル・コア・カリキュラムにおいて、その目標を薬剤師養成に絞ったことや、裁判化学に対応する到達目標が異なる大項目に分断された結果、現在では裁判化学と銘打つ講義を実施する大学はごく限られるまでになっており、同時に死因究明組織への人材提供機能が低下している。

 死因究明等推進基本法に基づき定められた死因究明等推進計画において、医学・歯学に加え薬学教育においても死因究明に関する内容の充実が求められているのは、死因究明を担う人材を提供してきた歴史に加え、医系学部として死因の理解に貢献すべきとの認識に基づく。従って、今般提示された薬学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂版に示された「死因究明明における毒性学・法中毒学的アプローチ」を各大学のカリキュラムに着実に反映させていく必要がある。

 薬物中毒死に至る前段階として必然的に薬物中毒状態を経るため、薬物中毒患者の病態を考える臨床中毒学と法中毒学は連続性を持って理解すべきものである。さらに、主に毒性の発生機構をカバーする毒性学との連携により、組織毒性と個体死の関連性を考察することが可能となる。従って、臨床中毒学、法中毒学及び毒性学を一体的に学修する体制を構築することが、臨床マインドを持って死因究明にあたる人材を養成することに繋がるものと考える。本シンポジウムでは、このような観点から死因究明に関連する教育研究についての私見を述べたい。

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