日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S14-2
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シンポジウム14: 細胞周期制御の破綻に起因する発がん研究の展開
化学発がんにおけるchromothripsisの関与
*石井 雄二
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抄録

小核(micronucleus)は、染色体不安定性や細胞分裂異常の結果生じた染色体又は染色体断片から成る小型の核である。化学物質の安全性評価では、古くから染色体異常の指標として用いられてきたが、小核そのものの意義や小核が生じた細胞に及ぼす影響については長い間不明なままであった。しかし近年、chromothripsisと呼ばれる現象が明らかになり、小核そのものが発がんの原因になることが報告されている。Chromothripsisは、小核の核膜の崩壊と染色体の粉砕・再構成の後、細胞質に漏出した染色体が細胞分裂の際に主核に取り込まれる現象である。取り込まれた異常な染色体は劇的な遺伝子異常を引き起こし、一度に複数のがんの発生や進行に関わる遺伝子の発現変化が生じると考えられている。実際、chromothripsisの痕跡とされる複雑なコピー数変異は、次世代シーケンサーによる全ゲノムシークエンス解析によって様々な腫瘍で見つかっており、これら腫瘍の発生や悪性化の過程にchromothripsisが寄与していることが示唆されている。一方、化学物質の中には小核を誘発するいわゆる染色体異常誘発物質が多数存在するものの、化学発がん過程においてこのような現象はこれまでに報告されていない。 最近我々は、ラット肝発がん物質であるacetamideが肝臓に特徴的な大型小核を誘発することを見出し、その分子病理学的解析とacetamide誘発腫瘍の全ゲノムシークエンス解析の結果から、acetamideの肝発がん過程にchromothripsis様の染色体異常が生じることを明らかにした。本講演では、これらの研究結果を紹介し、化学発がんにおけるchromothripsisの関与の可能性について考察する。

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