日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S14-4
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シンポジウム14: 細胞周期制御の破綻に起因する発がん研究の展開
がん微小環境に存在する老化細胞の新機能
*高橋 暁子
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抄録

細胞老化は生体に加わるストレスによって誘導され、細胞周期を不可逆的に停止させる重要ながん抑制機構として働いている。その一方で、老化細胞はさまざまな炎症性蛋白質や細胞外小胞を分泌するSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)によって周囲の組織に慢性炎症を誘発し、加齢性疾患や個体の機能低下の要因となっていることが明らかとなっている。さらに、がんの微小環境においては、老化した間質細胞が分泌するSASP因子が、がんの発症と進展に関与することが示唆されており、細胞老化とSASPがおこる分子機構の解明は、がんを制御するために重要な課題である。そこで私たちは、老化細胞でSASPがおこる分子機構の解析を行い、炎症性遺伝子群の発現には染色体の不安定化によるゲノムDNA断片の産生や、エピゲノム異常が重要であることを報告してきた。また、老化細胞が分泌する細胞外小胞には正常細胞が分泌する細胞外小胞とは異なる核酸や蛋白質が含まれており、細胞外小胞もSASP因子のひとつとして炎症性タンパク質と同様にがんの進展に関わることが明らかになりつつある。我々は最近、老化細胞が分泌するSASP因子が細胞競合を阻害して、がん変異細胞の増殖に寄与することも見出している。近年、老化細胞に選択的に細胞死を誘導することで加齢性疾患の発症を抑制しようとするSenolyticsが注目を集めており、Senolytic 薬の投与によってがんの発症や進展の予防や治療が期待できることから、がん微小環境に存在する老化細胞の機能を解析することで、新しいがんの治療に繋がることを期待したい。

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