日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S20-1
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シンポジウム20: 【日本免疫毒性学会合同シンポジウム】免疫毒性学ってナンだ? −“働く免疫細胞”に起こる毒性影響,活性化と抑制 −
免疫毒性学の未来に向けて
*中村 和市
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抄録

 免疫毒性学は、これまで試験法の確立、評価手順の国際的調和そして発現機序に基づいた免疫毒性評価へと軌跡を描いてきた。環境中化学物質に関しては、ヒ素、錫、TCDDなどに続き、近年ではアスベスト、微小粒子状物質、ビスフェノールA、フタル酸エステル、パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)などが免疫毒性評価の対象となった。

 日本免疫毒性学会(研究会)発足時は、医薬品の抗原性試験についての議論が活発であった。しかし、評価性能の限界を伴った抗原性試験のコンセプトが正しく理解されないまま議論を進めた結果海外から孤立した。ICH S8ガイドラインの意義としては、各極の行政当局がガイドライン(案)を提示するなか、これらを国際的に調和してまとめたところにある。抗体医薬品や核酸医薬品の出現は免疫毒性評価にも大きなインパクト与え、懸念される免疫原性等を評価するガイドラインが無いなか研究者間の議論が続いている。

 サステナブルな世界を目指す観点からは環境中・食品中化学物質の免疫毒性評価が注目される。これまでフィールドワークも活発になされ臨床にも目が向けられてきた。その後、免疫毒性機序の研究もなされてきたが、疫学調査の重要性も見直されるべきである。

 免疫亢進を伴う新規モダリティー医薬品の免疫毒性は、ICH S8ガイドラインでの評価は難しい。必要であれば、改定ではなく新規ガイドラインの制定が望ましいと考える。In vitro 評価や有害性発現経路(AOP)に基づく評価は単に代替法としての位置づけのみならず、非臨床の免疫毒性評価としても重要性を増している。

 免疫毒性学は毒性学において重要な位置を占める。免疫毒性は、肝毒性、腎毒性、皮膚毒性、発がん性、生殖毒性などに深く関わっている場合があるからである。本発表が、免疫毒性研究に携わっている研究者自身の立ち位置を見つめなおす機会になればと考える。

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