日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S20-3
会議情報

シンポジウム20: 【日本免疫毒性学会合同シンポジウム】免疫毒性学ってナンだ? −“働く免疫細胞”に起こる毒性影響,活性化と抑制 −
シリカ・アスベストの免疫毒性影響 〜免疫毒性研究に基づく関連疾病の理解〜
*西村 泰光
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

本シンポジウムでは免疫毒性研究について改めて広く毒性学研究者へ周知する目的で企画されているが、ここでは結晶性シリカとアスベスト(石綿)の免疫毒性影響に関する研究内容を紹介し、免疫毒性影響を理解する上での要点を整理すると共に、免疫毒性研究の知見により関連疾患がより深く理解できることを伝えたい。シリカや石綿は共に二酸化ケイ素を主成分とし、両粉塵への曝露は塵肺および肺がんを引き起こす。しかし、珪肺が関節リウマチや全身性強皮症など自己免疫疾患の合併を示す一方、石綿曝露は悪性中皮腫を引き起こし、両者の免疫機能への曝露影響についての差異が示唆された。実際、吸入された粉塵はリンパ節へ蓄積することが知られており、粉塵曝露のリンパ球機能への直接影響が予想された。そこで、我々はシリカまたは石綿曝露下での細胞培養実験による基礎的検討と臨床検体の免疫機能解析を中心とする一連の研究を行った。その結果、シリカ曝露はCD69+活性化T細胞の誘導とFoxp3+制御性T細胞(Treg)の減少を引き起こし、これと一致して珪肺患者の末梢血では活性化指標である可溶性IL-2R濃度の高値とTreg細胞の機能低下が確認された。一方で、石綿曝露下での培養はNK細胞の活性化受容体発現低下、CD4+T細胞のTh1機能低下とTreg機能亢進およびCD8+T細胞の細胞傷害性低下を引き起こし、指標分子の発現量変動は悪性中皮腫患者の末梢血細胞においても確認された。それらの知見は、シリカや石綿は鉱物粉塵曝露に共通する慢性炎症および肺線維化を引き起こすだけでなく、両者はリンパ球機能に異なる作用を示し、前者が過剰な免疫応答、後者が抗腫瘍免疫の減弱に働き、それぞれ合併する疾患の背景として寄与することを示す。このように、免疫機能影響を知ることは関連疾病の理解に繋がる。今後の免疫毒性研究の更なる成長による毒性学の一層の発展に期待したい。

著者関連情報
© 2023 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top