主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
化学物質の安全性研究においてげっ歯類を用いたin vivo実験が行われるが,げっ歯類とヒトでは解毒代謝酵素などの種差が大きく,毒性反応やその機序が異なることがある。ヒト肝細胞キメラマウスは,マウスの内在性肝細胞がヒト由来肝細胞で置換され,ヒトに近い薬物動態を示すことから,毒性学研究への利用が進んでいる。本発表では,ヒト肝細胞キメラマウス(PXBマウス)の肝毒性感受性低下について,その病理学的特徴を中心に紹介する。
PXBマウスは,ヒト成長ホルモン(hGH)受容体刺激の欠失により,肝細胞のびまん性大滴性脂肪化を特徴とする脂肪肝を呈する。また,肝細胞のグリコーゲン蓄積もみられる。その肝臓では,Glutamine synthase,CYP2E1,Argininosuccinate synthase 1などの解毒代謝酵素のZone特異性がヒトやげっ歯類の肝組織と同様に維持されるが,E-cadherinやN-cadherinのZone特異性を欠き,正常なヒトやげっ歯類の類洞にはみられないLamininの強発現がみられ,細胞接着の特性が変化している。PXBマウスに,マウスの肝毒性容量の四塩化炭素,アリルアルコール,アセトアミノフェンを単回あるいは3日間反復投与しても,ヒト由来肝細胞には明らかな壊死が誘発されない。一方で,四塩化炭素投与によりヒト肝細胞のγH2AX陽性率が増加しており,軽度の肝毒性が誘発されると考えられる。
ヒト肝細胞キメラマウスはヒトに近い解毒代謝の特性を有する一方で,肝毒性物質に対してげっ歯類よりも明らかに抵抗性を示す。現在はhGH投与による脂肪肝抑制に伴う肝毒性感受性の変化を解析し,PXBマウスの肝毒性感受性低下のメカニズムを追究している。