主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
我々脊椎動物は、その名のごとく脊椎骨を持つ動物である。脊椎骨や肋骨、そしてそれに沿って走る神経、血管などの構造は繰り返し構造(分節構造)をしめすが、この分節性はすべて発生過程に一過的に形成される「体節」に依存する。この体節形成に失敗すると、体節由来の組織の異常により重篤な病態を引き起こす。体節は尾部の突端にある尾芽領域から供給される沿軸中胚葉が、前後軸に沿って一定間隔でくびれ切れることで、形成されるブロック状の細胞塊である。尾芽から体節を形成するまでの中胚葉組織を未分節中胚葉と呼び、この領域内での細胞内及び細胞間の情報伝達が規則正しい分節のタイミング(マウスでは2時間、ヒトでは8時間)を決定している。その中でも特に、Notch シグナルに関わる因子が体節形成に必須であることがノックアウトマウスの解析で示された。また、Notchシグナルのみならずいろいろなシグナルに関わる遺伝子が、体節形成の周期に合わせて尾側から頭側へ、波をうつように発現を変化させる。これは、未分節中胚葉の個々の細胞が周辺の細胞と同調しつつ、Notch シグナのオン・オフをくりかえす、いわゆる体節時計に制御されているからである。さらにこの時計は正確に停止して、分節境界を決定する。我々はその時計の停止に関与する転写因子MESP2の機能解析を続けてきた。多くの変異マウスを駆使した遺伝学的解析により、MESP2は時計を停止し分節を開始させる鍵となる遺伝子であることが明らかになっている。このシンポジウムでは、MESP2およびその下流因子RIPLLY2の作用機構を論じるとともに、ヒト疾患とのかかわり、また最近確立されたヒトiPSからのオルガノイドを用いたモデル系に関しても概説したい。