日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S23-4
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シンポジウム23: シグナル伝達相互作用による発生制御機構とその破綻による発生毒性の予測
シグナル伝達のかく乱計測による発生毒性予測法の開発
*大久保 佑亮
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抄録

発生毒性は元来の種差特異性の高さ故、現行の試験法では複数種多数の動物を用いるなど人的・時間的・金銭的に多大な労力を払ってその安全性を評価せざるを得ない。そのため、一般化学物質においては十分に発生毒性が評価されないまま使用されているのが現状である。また、新規モダリティと呼ばれる医薬品が次々と開発されている。これら新規モダリティ医薬品は概してヒトに対する特異性が高く、現行の発生毒性試験だけではその安全性を評価することが難しい。したがって、これらの課題を解決する、ヒトの発生毒性を高精度に予測可能なスループット性の高い新たな試験法が求められている。 胚・胎児発生はシグナル伝達の相互作用により適切に制御される。この事実は逆説的に発生毒性を引き起こすためには、化学物質の標的にかかわらずその過程においてシグナルがかく乱されているのではないかと考えた。そこで、発生過程において重要な役割を果たすFGF-SRFシグナルのかく乱作用の検出を試みた。ヒトの発生毒性の検出のためにヒトiPS細胞を用いるとともに、化学物質による直接のシグナルかく乱作用に加えて間接的な影響も考慮するために、生細胞ルシフェレースシステムを用いてシグナルかく乱作用のダイナミクス解析を行った。その結果、サリドマイドを含む既知の発生毒性物質21種類、陰性物質14種類を89%の正確度で評価可能であった。 一般的に発生過程は複雑なシグナル伝達相互作用により制御されると考えられている。そのため、今回FGF-SRFシグナルのかく乱作用の解析のみで高い正確性で発生毒性を評価可能であったことは予想外であった。現在、この分子機構の解析を進めている。 今回我々は、動物を用いた毒性試験とは概念的に異なる細胞を用いた毒性試験法を構築した。今後は動物試験に加えて本試験のような細胞試験により高い胚・胎児の安全性の確保に努めたい。

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