日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S25-2
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シンポジウム25: 解毒の種差を探る
苦味感覚と解毒の進化:チンパンジー、コアラ、カモノハシ
*早川 卓志
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抄録

 哺乳類は不快な感覚として、食物中の毒物を苦味でする。分子レベルでは、苦味は口腔内(特に舌の乳頭)に発現した苦味受容体を介する。苦味受容体はTAS2Rという遺伝子にコードされている。たとえばヒトは26個のTAS2R遺伝子を持つ。それぞれのTAS2R遺伝子は異なるリガンド結合ポケットを持ち、そのため口腔内で多様な毒性のあるアゴニストの検出を可能にしている。TAS2R遺伝子の数は哺乳類種によって大きく異なる。多くの哺乳類は20個未満しかTAS2R遺伝子を持っておらず、鯨類に至ってはゼロ個だ。一方で、チンパンジーとコアラはそれぞれ28個と24個のTAS2R遺伝子を持ち、これは樹上生活における葉食に依存しているためである。ヒトが26個のTAS2R遺伝子を持つのも霊長類の祖先として樹上で進化した結果である。霊長類とコアラはCYPのような解毒因子の数も多い。哺乳類における苦味感覚の起源は何なのだろうか。ヒトから最も離れたカモノハシは7個しかTAS2R遺伝子を持たない。しかし、全哺乳類で保存されている苦味受容体はシアン化合物のような配糖体に応答する。おそらく初期哺乳類は、環境中のシアン化合物から、大きな選択圧を受けて進化したのだろう。

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