日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S28-4
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シンポジウム28: 【企画戦略シンポジウム】学際的毒性学を目指して:医療医学系への拡大
環境労働衛生学分野における毒性学
*諏訪園 靖
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抄録

はじめに

 当教室では、労働者、一般住民を対象に、環境労働衛生学を展開してきた。その基盤として、疾病の成り立ちを把握する疾患モデルがある。健康影響の起こり方を見極め、その背後にある原因を推測し、健康影響の発生に関与している要因を明らかにし、その要因を人間集団から除去し、影響を防止することを目指している。疾病の成り立ちの構成要素として、病原と宿主と、そのバランスを下支えする環境要因を想定し評価を進めていくものといえる。その一例として、WHO発行のBasic Epidemiologyという教科書では、1840~1968年のイングランド・ウェールズにおける年齢調整結核死亡率を示している。グラフを見ると、コッホ博士による結核菌発見、化学療法の発見、BCG普及以前より死亡率は大きく減少している。この減少については、生活環境、栄養状態の改善が大きな要因であったと考えられ、このような疫学的なとらえ方の重要性が示されている。

研究分野への毒性学の応用と社会への展開

 我々の研究グループでは、能川浩二千葉大学名誉教授が展開してきた、イタイイタイ病の原因究明からはじまるカドミウムの健康影響に関する研究を受け継いでいる。関連する当時の調査の結果とともに、その後の疫学研究の一般住民への展開について示し、毒性学を応用することで、許容カドミウム摂取量の設定に貢献できたこと、また、産業保健の現場で健康影響を生じさせないための「生物学的許容値」の提案につながったことを紹介する。一連の調査により、その成果を社会に展開しうる結果が得られてきていると思う。「許容濃度」などの予防対策の方向性を明らかにするとともに、その重要性を示すことができた。今後も様々な分野で、毒性学を環境労働衛生学・公衆衛生学に応用した調査が展開され、環境保健・産業保健が進展していくことが期待される。

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