主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
胎盤は胎児に酸素や栄養を届ける役割を持ち、妊娠を維持する上で非常に重要な臓器である。細胞性栄養膜細胞(CT)が絨毛外性栄養膜細胞(EVT)と合胞体性栄養膜細胞 (ST)へと分化して胎盤が形成されるが、この分化過程に異常が起こると妊娠高血圧症候群や胎児発育不全、早死産などが引き起こされる。母体および児への悪影響は甚大である。このようなことから胎盤形成に対する毒性予測のための評価系構築が切望されている。しかしながら、胎盤構造には種差が大きく実験動物での評価は難しい。我々は、ヒト胎盤や胚盤胞から樹立された細胞株を用いた高精度な胎盤毒性評価系の構築を目指している。 カドミウムは、その母体血中濃度と早期早産との関連性が報告されている。その毒性が培養細胞で検出可能か調べた。栄養膜幹細胞 CT27 細胞において、各種分化マーカーの発現をqPCR により評価することでカドミウム曝露の胎盤形成への影響を調べたところ、合胞体化に対して、カドミウムは阻害作用を示すことが明らかとなった。ただし、その合胞体化阻害には 数 μM 程度が必要であった。一方、EVT 様細胞への分化は、数百 nMで阻害された。つまり、より低濃度のカドミウムで影響を受けるのはEVTへの分化であった。次に、EVT がもつ遊走能・浸潤能に対するカドミウムの影響もEVT 様細胞HTR- 8/SVneo を用いて観察した。その結果、数十 nMという低濃度の曝露であっても、HTR-8/SVneo の遊走および浸潤が阻害された。これらの結果は、カドミウムは、EVT への分化とEVT機能を阻害することで胎盤機能不全を引き起こし、早期早産のリスク を増加する可能性を示している。本シンポジウムでは、これら細胞株を用いて行っている胎盤毒性評価に対する我々の取り組みを紹介したい。