日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL5
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特別講演
アカデミア創薬ナラティブ
*萩原 正敏
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抄録

我が国でもアカデミア創薬への期待は高まっているが、大手製薬企業などが行っているのと同様の手法で化合物スクリーニングを行っても、研究チームの規模が小さく開発資金に乏しいアカデミアが、画期的新薬を見つけ開発することは困難である。それゆえ我々は、異常RNAスプライシングなど、標的とする疾患の病態を反映する細胞評価系を独自に構築し、従来より遥かに効率良く有望な化合物を見出してきた。また探索途上で見つかった興味深い表現型を示す化合物を手掛かりとして、これまで未知であった疾患の病態や分子機構を解明する新しい研究手法も確立した。RNAバイオロジーとケミカルバイオロジーの解析手法を駆使して、表現型アッセイで見出されたヒット化合物の分子標的を特定し、遺伝病、ウイルス感染症、悪性腫瘍、疼痛など幅広い領域において、画期的な”魔法の弾丸”なり得る化合物を見出している。さらに我々はAIを駆使して全ゲノム配列情報を解析し、従来の薬剤では治療が困難であった疾患に対する治療薬候補物質を続々と見出している。特に我々の低分子化合物は、深部イントロン変異に起因する偽エクソン型スプライシング異常を抑制する活性があることを、NEMO異常症、嚢胞性線維症、心ファブリ病等の偽エクソン変異モデルの解析から見出した。我々の開発してきたスプライシング制御化合物とAIによる治療対象患者抽出戦略とを組み合わせることで、遺伝病の精密先制医療への道を拓く可能性があるのみならず、スプライシング制御化合物をCOVID-19の重症化を防ぐ自然免疫賦活化剤や、がん免疫チェックポイント療法増強剤として応用可能であることが判明している。また上記の研究途上に、種々のウイルスRNA合成を特異的に阻害する画期的な抗ウイルス薬FIT-039を見出し、疣贅や子宮頸癌に対する医師主導第1/2相臨床試験が進行中で、新型コロナウイルスへの効果も検討されている。

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