主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
我々はチオアセトアミド誘発ラット肝線維化モデルにおいて,実験的鉄過剰がNrf2系の活性化を介して肝毒性を軽減することを明らかにした。本研究では,四塩化炭素(CCl4)反復投与モデルラットの病態修飾に関わる肝鉄過剰とNrf2系の役割を解析した。6週齢雄のNrf2欠失(KO; F344-Nfe2l2em2Kyo)または野生型F344ラットに鉄過剰食(0.8%または1% Fe)または標準食(0.02% Fe)を4週間給餌した後,CCl4(0.75 mL/kg)を週2回4週間反復経口投与し,誘発される病態を解析した。野生型ラットの鉄過剰食群において,実験途中の斃死や瀕死による切迫解剖例が頻出した。この瀕死・斃死例では,四肢の筋間や前縦隔部などに全身性出血がみられ,肝逸脱酵素の上昇を伴っていた。一方,Nrf2 KOラットでは実験期間を通して一般状態に著変はみられなかった。病理組織学的に,野生型およびKOラットでは,鉄過剰食給餌により肝線維化が進行した。野生型と比べて,Nrf2 KOラットでは鉄負荷の有無にかかわらず肝線維化や細胆管反応がより広範囲に観察された。即ち,Nrf2系の存在はCCl4誘発肝線維化を軽減することが示された。ところで,計画解剖例と比べて,鉄過剰食とCCl4を併用した野生型ラットでは,瀕死・斃死例が多くみられ,それらのラットでは重度の肝細胞傷害がみられた。即ち,Nrf2存在下で鉄過剰食とCCl4投与を併用すると,全身性出血を伴う重度肝障害を誘発することが示された。鉄過剰ラットは凝固因子ⅡとⅦの活性低下を示すものの,鉄過剰単独で出血は誘発されないことから,CCl4誘発肝障害は凝固異常を促進するが,その事象はNrf2欠失で消失する可能性が考えられる。