主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
我々は、ヒトiPS細胞を用いた種差を軽減した発生毒性評価法の構築に取り組んできた (S. Kanno et al., iScience, 2022) 。胎児の発生過程はシグナル伝達相互作用によって制御されている。そこで我々は、発生毒性は正常なシグナル伝達相互作用のかく乱により引き起こされると仮説を立て、シグナルレポーターアッセイ法 (DynaLux/c) の構築に取り組んだ。形態形成に重要なFGF-SRFシグナル伝達経路に応答して発光するヒトiPSレポーター細胞(SRE-Nluc)を用いて、化学物質添加時の発光強度を測定することでシグナルかく乱を経時的に計測した。そして、溶媒対照群との発光強度の曲線間面積(ABC)をシグナルかく乱の大きさを表す指標と定義し、その和をSUM of ABCとして算出した。この手法は既存の試験法と比較し89%の高い正確度を有していた。しかし発光測定をアッセイ開始2、4、6、8、10、24時間後に手動で計測していたため、詳細な時間変化の測定が困難であり、また夜間は計測できていなかった。そこで、細胞培養と発光測定を同時に行うことのできる多検体生細胞リアルタイム発光測定システムを用いて発光測定を自動化し、詳細かつ長時間の発光測定が可能な手法を確立した。その結果、従来の手動による24時間計測では、測定点が少ないため発光強度のピークは1つしか観察されなかったが、72時間自動計測では2つのピークがあることが明らかになった。また、バルプロ酸のような24時間以降にかく乱が拡大する発生毒性物質もより正確な検出が可能になった。ヒトiPS細胞を用いたシグナルレポーターアッセイ法に関して、発光測定を自動化することで、より正確なシグナルかく乱を追跡できる可能性が示された。今後は、測定条件を最適化し、試験物質数を増やすことで、この手法の有用性を明らかにする予定である。