主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
化学物質感受性には大きな動物種差があり、哺乳類の中でも半数致死量(LD50)が10倍、100倍違うという事も珍しくはない。これは実験動物とヒトの外挿性、あるいは農薬の非標的生物への中毒に対し大きな問題となる。一方で、動物種差の評価手法としてはin vivoの曝露試験が不可欠であり、広範な動物種、とりわけ希少性の高い野生動物に対し評価を実施するのは困難である。化学物質感受性動物種差の原因は大きく、標的タンパク質の配列多様性と薬物体内動態、特に代謝酵素の多様性の2つに分けられる。薬物代謝酵素についてはネコ科動物でグルクロン酸抱合能の低下(UGT1A6の偽遺伝子化)が生じている等理解が進んでいるが、標的タンパク質の配列多様性については各論的な研究に留まっている。本研究ではAlphafold2をはじめとするアミノ酸配列からの高精度なタンパク質立体構造予測アルゴリズムと分子ドッキング計算、構造解析を利用し遺伝子情報に基づく動物種差の評価を実施した。モデルとして、猛禽類や食肉類などの非標的野生動物における中毒被害が数多く報告されている抗血液凝固系殺鼠剤を用いた。ドッキングシミュレーションで得られたVKORと殺鼠剤の結合親和性の差とin vitro阻害試験で得られた野生動物の殺鼠剤感受性の種差はおおよそ一致した。野生動物全体では霊長類・食肉類・海獣類がげっ歯類・草食動物よりも結合親和性が高い傾向にあることが確認された。アミノ酸配列に基づいた系統樹と構造類似性に基づく系統樹の比較により、この結合親和性の違いはVKORのアミノ酸配列よりもタンパク質立体構造に相関があることがわかった。本研究により、霊長類・食肉類・海獣類がげっ歯類・草食動物よりも殺鼠剤に対して高感受性であり、この種差はVKORの立体構造に起因する可能性があることが示唆された。