主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
ヒトは生活の中で農薬やPM2.5など多くの環境化学物質に曝露されており,これらの長期的な曝露はがんなどの慢性疾患の発症に関連することが指摘されている.この根底にあるメカニズムとしてエピゲノム異常が示唆されているが,その毒性因子や分子メカニズムは未解明である.一方,環境化学物質の中でも親電子物質はタンパク質と付加体を形成することで,その酵素活性を制御することが報告されている.
我々は,複数の環境親電子物質に対し,エピゲノム制御因子であるDNAメチル基転移酵素DNMT3Bの酵素活性阻害スクリーニングを行い,4 種の阻害物質を同定した.さらに,このうちの1 種についてはDNMT3Bに直接結合し,酵素活性の低下とそれに起因したDNAメチル化低下を誘導することで,炎症性サイトカインの発現増加を介した炎症応答を惹起する可能性を見出した.そこで本研究では,スクリーニングにより得られた4種の親電子物質の中から,農薬として現在世界各国で用いられているジチアノンに着目し,炎症応答に関わる転写因子であるSTAT1に対する影響を解析した.
まず,DNMT3A/Bに対するジチアノンの酵素活性阻害能について評価したところ,いずれも処理濃度依存的な酵素活性の低下が認められた.続いて,ヒト肺胞上皮腺癌由来A549細胞にジチアノンを処理し,リン酸化STAT1の経時的な変化を確認したところ,48 時間以降において恒常的なリン酸化STAT1の増加が認められた.
以上より,ジチアノンはDNMT3の酵素活性を阻害するエピゲノム制御因子として機能し, STAT1のリン酸化を誘導することで恒常的な炎症応答を惹起する可能性が示された.今後,ジチアノンの発現制御を受けるサイトカインを探索していく予定である.