主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
【目的】血管の内腔を覆う血管内皮細胞に対する酸化ストレスは動脈硬化症の発生に寄与する。生体エネルギー分子であるadenosine triphosphate(ATP)は、細胞傷害に伴い放出され炎症反応を惹起する生体機能調節分子として機能することが知られている。また、ATPは動脈硬化症の増悪化を引き起こすことが報告されているが、その詳細なメカニズムについては明らかとなっていない。そこで本研究では、動脈硬化病変発生の初期プロセスである血管内皮細胞への酸化ストレスに対してATPが与える影響とその分子機構を検討した。
【方法】ヒト血管内皮細胞株EA.hy926細胞をATPおよび過酸化水素で処理した。細胞傷害性は、乳酸脱水素酵素の逸脱量で、細胞形態はGiemsa染色により細胞を固定した後に顕微鏡下で観察し評価した。遺伝子発現レベルはReal time RT-PCR法で、タンパク質発現レベルはWestern blotting法で測定した。
【結果・考察】過酸化水素の血管内皮細胞に対する傷害性はATPによって増強した。ATPは過酸化水素処理によるHO-1 mRNAの発現誘導を抑制することが確認された。一方で、他の酸化ストレス防御因子の発現には影響を与えなかった。このことから、細胞外ATPは酸化ストレスに対する応答調節を通じて細胞傷害性を増強させる可能性が示唆された。次にATP受容体であるP2XおよびP2Y受容体の関与を検討した。その結果、P2X受容体アンタゴニストPPADSによる影響は認められなかったが、P2Y受容体アンタゴニストSuraminは、ATPによるHO-1 mRNAの発現抑制の回復および過酸化水素による傷害性の増強を抑制することが確認された。これらの結果から、細胞外ATPはP2Y受容体を介して血管内皮細胞の酸化ストレスに対する応答調節に寄与している可能性が示された。