主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
本邦において、1971年まではインフルエンザウイルス不活化全粒子ワクチン(WPV)が使用されていたが、1972年以降は現在に至るまでスプリットワクチン(SV)が使用されている。これらはいずれも、鶏卵(白色レグホーン種)にインフルエンザウイルスを感染させた後、感染鶏卵のしょう尿液をワクチン原液として調製されるが、WPVからSVへのモダリティシフトの理由には、WPVの方がSVよりも免疫原性が高いというメリットがある反面、発熱原性も高いというデメリットがあることが挙げられる。しかし、SVは安全性に優れている一方で、インフルエンザの既往歴やワクチン接種歴のない小児や免疫機能が衰えた高齢者では抗体誘導能が低いことが知られており、免疫原性が高く副反応の少ないワクチンの開発が望まれている。
我々は、WPVの副反応を低減することで、より有効性の高いインフルエンザワクチンを開発できると考え、発熱反応の低減に焦点を当てている。細胞外小胞(EVs)は、ほとんどの細胞から産生され、その産生細胞由来のタンパク質・脂質・核酸などの情報伝達物質を含み、血液などを介して循環することで、生体の様々な場所で生理的機能を果たす。我々は、WPV中に鶏卵由来のEVsが混入していることを電子顕微鏡により明らかにし、低張液処理によりEVsを除去したWPVは抗体誘導能が高く発熱原性が低いことを明らかした。
WPV調製中に混入するEVsの発熱反応に関与する分子を同定するために、Optiprep密度勾配遠心分離法によりWPVからEVsを単離し、WPV中のEVsを分離精製した。その後、マイクロアレイやnanoLC-MS/MSでEVsの組成を解析し、WPV中のEVsに選択的に含まれる白色レグホーン由来のmicroRNA及びタンパク質を同定した。現在は、同定した各分子の発熱反応への寄与及びメカニズムを検証している。