主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
ヒト由来呼吸器細胞の培養は従来より気道上皮初代細胞では長期培養の技術が確立して有用なリソースとして普及していたが、肺胞上皮は長年、培養の難しい細胞として知られてきた。近年はオルガノイド培養によってII型肺胞上皮細胞についても長期培養法が確立しつつあるが、クローニングや培養できる期間の長さには課題が残されている。ヒト由来初代細胞の限界点として、ドナーを選択できる余地は限られてきたことや、特に希少疾患や重症呼吸不全患者からの検体入手は診断などの医療上必要不可欠な場合に限られるため、ヒト由来呼吸器細胞を用いた病態や薬剤応答を調べる研究は容易ではなかった。近年、ES細胞やiPS細胞をはじめとする多能性幹細胞の利便性が高まり、ヒト由来の呼吸器細胞を分化誘導が可能となり、初代細胞をある程度代替できる可能性を見込めるようになってきた。特に、ヒトES細胞は標準化された細胞株を扱えることや、ヒトiPS細胞ではドナー由来末梢血さえあれば、iPS細胞を樹立して品質管理を実施することで、ヒト多能性幹細胞の様々な応用が可能である。一方、分化誘導法には複数の方法が報告され、目的に応じた分化誘導法や分化後の培養法の選択が可能である。こうした背景で、私たちはこれまでに疾患モデルや再生医療に向けた分化誘導や長期培養の方法の開発に取り組んできた。疾患モデルでは肺胞上皮と線維芽細胞を共培養するオルガノイドを用いて上皮-間葉相互作用を再現できる肺線維症の疾患モデルを報告してきた。また、薬剤応答を調べるためのスループット性の改善のため、肺胞上皮スフェロイドを細胞外マトリクスの基質の上に形成させるon gel培養法や、工学的に加工されたプレートの上にアピカルアウト型の肺胞や気道オルガノイドを並べたマイクロパターン培養法を開発したので最近の取り組みを中心に話題を提供する。