日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: S15-5
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シンポジウム15: 鳥の鉛中毒:国内で「今」起きている健康被害
野生鳥類における鉛中毒の何が問題か? ~希少猛禽類と水鳥を中心に~
*齊藤 慶輔
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抄録

 野生鳥類における鉛中毒として以前より知られているのはカモ類で、消化を助ける目的で胃内に貯留する小石と誤って水鳥猟用の鉛散弾を飲み込むことにより多発している。鉛製釣り錘の摂食による症例も確認されている。猛禽類においては、狩猟用の鉛弾に被弾したシカなどの残滓を採食する事によって多数のワシ類が鉛中毒に陥っていることが確認されている。

 鉛による野鳥の健康被害は、中毒に陥った場合の致死率が高く、臨床症状を伴う症例では解毒治療を行ったとしても完治しにくい特徴がある。骨に蓄積した鉛によるリバウンドにより長期間の治療を強いられることも少なくない。長期的な鉛暴露がもたらす体調不良による繁殖や渡りなどの生態的な影響も懸念される。

 生態系や生物多様性に対する影響としては、狩猟残滓の採食による希少猛禽類への直接的な健康被害が、より優位な成鳥個体で多発していることが挙げられる。限られた餌資源を得ることができる強い個体に大きなリスクをもたらし、次世代の産生にまで影響が及んでいることから、種の保存上極めて大きな問題と言える。また、本州で行ったカモ類の捕獲調査では約16%の個体が高濃度の鉛に汚染されていたが、野鳥の鉛汚染実体はわかりにくく、特に渡り鳥における広範な影響や食物連鎖を介した生態系への影響は解明することが難しい。環境中にばら撒かれた鉛散弾を水鳥が採食するなど、過去の遺残物により野生鳥類が長期的に影響を受ける懸念もある。

 野生鳥類の鉛汚染が人間にもたらす影響として、ジビエを介した鉛の摂取による健康被害が挙げられる。鉛弾が残存する可能性のある狩猟鳥獣の肉や、鉛散弾の摂食により鉛に汚染されたカモなどの肉を食材として利用する際への注意喚起が世界的になされている。

 One Healthの観点から狩猟用の鉛弾を速やかに撤廃することが急務である。

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