日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: S26-3
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シンポジウム26: 神経・グリアクロストークが織りなす神経病態
活性化ミクログリアの表現型制御作用を介したオキシトシンの脳卒中後遺症治療薬としての可能性
*東 洋一郎中村 里菜清水 孝洋秋澤 俊史齊藤 源顕
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抄録

世界的に主要な死因の一つである脳卒中の過半数は脳血管が詰まることで起こる脳梗塞である。脳梗塞では死に至らずとも運動障害や感覚障害などの後遺症によるQOLの低下が問題となっているが有効な治療薬は開発されていない。そのため、現状、脳卒中後の機能回復は主にリハビリテーションに委ねられていているが、その効果は十分とは言えない。演者は脳卒中後遺症の重症化や機能回復に関与している脳内免疫担当細胞のミクログリアに注目して研究を行っている。活性化ミクログリアの一つであるM1ミクログリアは炎症性サイトカインなどを分泌して炎症応答を促進し神経傷害を増悪化させる。一方、もう一つのM2ミクログリアは抗炎症性サイトカインなどを分泌して神経保護的に作用する。このことは、脳卒中後遺症の治療戦略としてM1ミクログリアを抑制し、M2ミクログリアを増強させること、つまり活性化ミクログリアの表現型制御が有効であることを示している。近年、リハビリテーションにイヌなどを介在させる動物介在療法が機能回復を促進させること、さらにイヌとの触れ合いがヒトの血中オキシトシン (OXT) 量を増加させることが報告されている。我々はOXTの経鼻投与が中大脳動脈永久閉塞モデルマウスの生存率を向上させるとともに、障害された感覚運動機能を改善することを見出した。加えて、梗塞巣並びにその周辺で観察された活性化ミクログリアの集積がOXT投与によって抑制され、さらに活性化ミクログリアの表現型としてM2ミクログリア優位になることを見出した。これらの結果は簡便かつ侵襲性の低い経鼻投与法でOXTが生存率と後遺症改善という脳梗塞の二つの大きな問題点を同時に解決できる可能性を示唆している。本シンポジウムでは活性化ミクログリアへの作用に着目しながらOXTの脳卒中後遺症治療薬として可能性について我々の最新の研究成果を交え概説したい。

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