主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
パーキンソン病(PD)は,黒質線条体路のドパミン神経の変性脱落に基づく静止時振戦,無動・寡動,筋強剛,姿勢保持障害などの運動症状と便秘や嗅覚異常,起立性低血圧などの非運動症状を発現する進行性で原因不明の神経変性疾患である.PDはαシヌクレイン(αSyn)の異常凝集を伴った神経変性が末梢から上行性にあるいは脳内で伝播し,中脳の黒質に至った時点で運動症状を呈すると考えられているが,その病態形成メカニズムは未だ不明である.現在のところ,αSynの異常凝集体がシードとして細胞間を伝播し神経病態を拡大させるというプリオン様伝播仮説が注目されている.神経外環境であるグリア細胞は栄養供給や免疫作用により神経環境の維持に重要な役割を果たすだけでなく,近年ではグリア細胞による凝集αSynの分解機構が注目されつつある.一方で,神経病態においてはグリア細胞による炎症反応が神経障害に関与すると考えられている.我々はこれまでに,PDにおける黒質−線条体系ドパミン神経障害のメカニズムを明らかにするため,グリア細胞に着目し検討した結果,PD発症リクスを高める環境要因の一つである農薬ロテノン曝露は,部位特異的なアストロサイト−ミクログリア相互作用を介して中脳グリア細胞の神経保護機構の破綻および炎症性サイトカイン産生を誘導し,非細胞自律性のドパミン神経障害を惹起することを見出した.また,中脳グリア細胞が培養液中に蛋白質の凝集抑制・分解に関わる保護分子を分泌しており,ロテノン曝露によりこれらの分泌が低下することを見出した.本シンポジウムでは,以上の知見に加えて,中枢神経系のみならず末梢腸管神経系における凝集αSynによる神経障害へのグリア細胞の関与についての知見も併せて紹介し,PDの病態形成における神経グリア連関について議論したい.