主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
医薬品は、患者の疾病を治療し、QOLを向上するメリットがある一方、その薬を必要とする患者以外が服用する薬に混入した場合や、労働者が医薬品の製造現場で曝露した場合は、薬理作用も含めて有害な作用として捉え、製造現場においてそれらのリスク管理を行う必要がある。
PDE(ADE, HBEL, 一日曝露許容量)は、一生涯毎日曝露したとしても有害な作用を与えないと考えられる医薬品原薬の用量を示した曝露経路毎の限度値である。医薬品の共用製造設備における洗浄基準値の算出に利用される。
交叉汚染の洗浄基準値については、従前は「0.1%投与量」、「10ppm」、「目視検査基準」等が用いられてきた。リスクベースアプローチでは、それらに代わり、薬理学的あるいは毒性学的なデータから、個別の医薬品ごとに科学的にPDEを設定する必要がある。
諸外国では、2018年にPIC/S-GMPガイドラインが改定され、健康ベース曝露限界設定ガイドラインが制定された。国内においては、2021年に改正GMP省令が発出され、医薬品製造の共用設備における交叉汚染防止のための洗浄バリデーションについて、薬理学的・毒性学的評価に基づいて設定された残留管理のための限度値(すなわちPDE)が必要であるとされた。
一方、OEL(職業曝露限界)は、製薬産業においては、職場で医薬品原薬及び溶媒等の化学物質を取り扱う労働者の健康リスクを低減・管理するために設定される。
2023年度に労働安全衛生法施行令(安衛令)および労働安全衛生規則(安衛則)が見直され、事業者による自主的なリスクアセスメントの実施およびリスク低減措置の実施等が努力義務とされた。医薬品については、OELを薬理学的・毒性学的評価に基づいて設定し、自律的な管理のもと労働者の健康リスクの低減に努めることが必要と考えられる。
本講演では、諸外国及び国内の規制・基準の状況について紹介し、製薬産業におけるPDEやOELの必要性について解説する。