主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
副腎は生体に作用する様々なホルモン分泌を担う.また,副腎は内分泌臓器の中で最も頻度高く毒性が検出される臓器である.特にコレステロールを材料に種々のステロイドホルモンを合成・分泌する副腎皮質は,脂溶性の高い化合物やステロイドホルモン代謝に作用を及ぼす化合物によって影響を受けやすく,空胞化や壊死といった病理変化が誘発される.今回我々は,Compound Xのイヌ4週間反復経口投与毒性試験において,投与終了時の副腎の大型化と重量増加を伴うびまん性の皮質空胞化病変 (脂質症) を経験した.この病変は,4週間休薬後に皮質中層域を主体とする投与終了時よりも大型な空胞を有する細胞の集簇病変に移行し,回復性判断に苦慮した (肉眼的な副腎の大型化と重量増加に関しては回復性が認められた). そのため,続く13週間反復経口投与毒性試験では,前述の空胞化病変の明確な回復性を確認するために休薬期間を12週間に設定し,空胞化病変の発生頻度と程度の軽減を確認することができた.毒性変化の回復性を確認することはリスクアセスメント上非常に重要であり,反復投与毒性試験における休薬期間を長く設定すれば化合物の毒性変化の明確な回復性を確認できる確率が高まると考える.一方で,試験期間の長期化によって医薬品開発期間が延長することはメーカーにとって好ましくない.本発表では前述の事例を詳細に紹介するとともに,陽性対照物質であるAminoglutethimideの反復投与により誘発させた副腎皮質の空胞化病変の休薬後の経過についても発表する.また,副腎組織の生理学的ターンオーバーや脂質代謝に関する既知情報も参考に,副腎皮質空胞化病変の回復性判断やそれを可能にする適切な休薬期間の設定についても議論したい.