主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
薬剤の経口クリアランスの人種差は、各国での用量調節が必要となる可能性があるため、製薬企業や規制当局にとって重要な問題である。本邦においてはPMDAが数十年にわたり製薬企業に対して日本人を対象とした第I相臨床試験の実施を義務付けてきた。そのため、日本人と欧米人の薬物動態の比較データが数多く存在し、他の人種では容易ではない薬剤の経口クリアランスの人種差を研究することが可能である。民族差の評価に関する重大な懸念は、異なる条件下で実施された臨床試験間の比較の妥当性であり、過去の調査からも試験間変動(ISV)に起因する偽陽性であった可能性が指摘されている。
そこで本研究では、673件の臨床試験で評価された81薬剤について、日本人と欧米人の経口クリアランスの人種比(ER)をモデル基盤メタアナリシス(MBMA)に供した。薬剤をクリアランス機序により8群に分類し、各群のERを、個人間変動(IIV)、試験間変動(ISV)、群内の薬剤間変動(IDV)との関係で階層構造にモデル化し、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)を用いて一斉に推定した。
ER,IIV,ISV,IDVはクリアランス機構に依存し、多型酵素で代謝される薬剤やクリアランス機構が確認できない薬剤など特殊な群を除き、人種差は概ね小さかった。IIVの群別の傾向は人種間でよく一致し、ISVは変動係数としてIIVの約半分であった。経口クリアランスの人種差を誤検出なく適切に評価するためには、クリアランスの機序を十分に考慮した第I相試験を計画する必要があり、またそのような尽力を投資するべきクリアランス群が今回の調査で明らかとなった。本研究は、薬物動態に人種差が生じるメカニズムを仮定し、これに基づいて薬剤を分類し、統計的手法を用いてMBMAを行うという方法論が、人種差を合理的に理解し、戦略的な薬剤開発に役立つことを示唆している。