日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: S29-5
会議情報

シンポジウム29: 毒性研究者によるPDE/OEL 算出―医薬品の品質管理と労働者の安全性担保の ために-
変異原性発がん物質のAI/OEL算出における考慮点
*橋本 清弘
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

変異原性発がん物質の1日許容摂取量(Acceptable Intake、AI)を算出する方法はいくつか知られているが、算出方法によって考慮すべきポイントが異なる。変異原性発がん物質はDNAに損傷を与え突然変異を誘発することで発がんリスクが上昇する懸念があり、この作用には閾値が無いと考えられるため、低レベルの曝露でもヒトへの健康影響が排除出来ない。このため、発がんリスクを無視できるレベルを閾値として、これ以下の曝露量をAIとして算出するアプローチが多くの業界や行政に受け入れられている。この閾値は、毒性学的懸念の閾値(Threshold of Toxicological Concern 、TTC)と呼ばれている。変異原性発がん物質が医薬品に不純物として混入するシナリオでは、10万分の1をTTCと設定して、これ以下は許容出来るリスクとしてAIを算出して不純物の管理を行っている。このシナリオでは、AI算出の起点として、がん原性試験において最も感受性の高い動物種における最も感受性の高い腫瘍誘発臓器でのTD50を用い、直線外挿により腫瘍発生率が10万分の1となる値をAIとして算出する方法が一般的である。これに加えて、10%ベンチマーク用量信頼下限値(BMDL10:benchmark dose lower confidence limit 10%、げっ歯類における発がん率が 10%以下であると 95%の確率で 信頼できる推定最低用量)のようなベンチマーク用量を用いることもできる。この場合、BMDL10 を 10,000 で除すことで、直線外挿による10 万分の 1リスクレベルを算出できる。

一方、変異原性発がん物質について職業暴露限界(Occupational Exposure Limit、OEL)を算出するケースでは国際的にハーモナイズされたガイドラインが無い。ゴム及び化学産業ではこれらの物質を取り扱うケースがあるため、産業衛生上OELの算出が必要だが、規制当局によって異なるアプローチが取られている。これらの方法と導かれたOELがどの程度異なるかを紹介する。更に、In vivo遺伝毒性試験データの無影響量と安全係数を用いてAIを設定する方法の是非とこの場合に考慮すべき事項についても議論する。

著者関連情報
© 2024 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top